自己破産手続をする際に必要不可欠な不動産査定書とは?
自己破産手続は、借金を原則として全て免除してもらえる債務整理手続です。
しかし、その代償として、クレジットカードが使えなくなるなどの不利益が出る他、生活必需品を除いた価値ある財産(資産)のほとんどが処分されてしまいます。
持ち家(自宅)やマンションなどの不動産は、一般の方が持つ財産の中でも、特に高額な財産です。
よって、自己破産を行う場合、その不動産は原則として処分されると考えるべきでしょう。
自己破産手続にあたり不動産を処分する際に不可欠となるのが、不動産の評価額を証明する書類である「不動産査定書」です。
ここでは、不動産を持つ債務者が自己破産をする際に避けては通れない問題となる重要書類、不動産査定書について説明します。
このコラムの目次
1.自己破産手続の基本
(1) 自己破産とは?
自己破産手続は、マイホームや高価な車など、財産のほとんどを債権者に配当する代わりに、支払不能な借金について原則として全て無くしてもらう債務整理手続です。
自己破産手続により借金が無くなることを「免責」と言い、それを裁判所が認めることを免責許可決定と言います。
自己破産の手続の種類については、「裁判所が債務者に債権者に配当できる財産があるか」また、「免責不許可事由があるか」否かに応じて、2つの種類の手続のいずれかに振り分けます。
なお、免責不許可事由とは、破産法上、原則として借金を無くすべきではないとされる事情のことです。
①管財事件
管財事件という自己破産の手続は、債務者に債権者に配当できる財産がある場合や免責不許可事由がある場合など、自己破産手続に伴う破産法上の様々な処理・調査が必要な場合に利用されます。
よって、不動産を所有している方は、通常この管財事件で手続きが行われるでしょう(例外あり、詳しくは3.で解説します)。
管財事件では、裁判所により選任された破産管財人が、配当手続や免責不許可事由の調査、それに伴う書類の調査・確認など、様々な業務を行います。
申立てまでに破産管財人の報酬予納金を20~50万円ほど用意する必要があり、また、破産管財人の業務に協力しなければならないため、費用や手間が増えがちです。
②同時廃止
破産管財人を付ける必要がない場合には、各種手続を省略した自己破産の手続が用いられます。
この手続は同時廃止と呼ばれています。
免責不許可事由があっても、実務上ほとんどの場合、免責が認められています。裁判所の総合的な判断により免責が認められる、裁量免責という制度があるためです。
ただし、財産を隠す、虚偽の書類を提出する、嘘をつくなど、悪質な場合には、本当に免責が許可されないこともあります。
(2) 自己破産手続における不動産の扱い
自己破産手続における不動産の扱いは、抵当権・担保権がついているかで異なります。
抵当権がついていない不動産の場合
この場合、破産管財人が競売もしくは任意売却をして、売却代金を債権者に公平に配当します。
抵当権が付いている不動産の場合
不動産に抵当権を付けている住宅ローン債権者等は、配当によらずに、不動産を競売してその売却代金から返済を優先的に受け取ることができます。
公的機関である裁判所を利用する債務整理手続である自己破産手続では、債権者平等の原則と言って、債権者を公平に取り扱うことが原則です。
そのため、特定の債権者が優先的に返済を受けることは原則できません。
しかし、抵当権を付けている住宅ローン債権者は例外です。
この場合、他の債権者は、住宅ローン債権者等が住宅ローンなど自分の債権を回収してもなお売却代金が余った場合にのみ、不動産について配当を受け取ることができます。
2.自己破産手続における不動産査定書とは
不動産査定書は、不動産の評価額を裁判所に対して証明するための書類です。
自己破産手続きを行う場合、多くの裁判所から、2社以上の不動産業者が発行した査定書の提出を求められます。
不動産査定書により証明される不動産の価値は、債権者への配当に不可欠な情報であるだけでなく、先ほど説明した自己破産の手続の種類の決定にも影響します。
(1) 不動産の価値を評価する方法の種類
実は、不動産の金額は一つに定まっておらず、不動産の評価方法には以下の4つの種類があります。
- 実勢価格
市場価格、つまり、業者の査定で出てくる評価額です。- 公示価格
国土交通省が毎年公表しているものです。- 路線価
相続税などの基準となるものです。- 固定資産税評価額
固定資産税の基準となります。
(2) 裁判所の不動産評価方法の運用
裁判所の規則では、「不動産の実勢価格」が基準とされているため、基本的には不動産業者の複数の査定書を裁判所に提出することになります。
知人の不動産業者に頼んで査定額を安くしてもらったり、業者に頼んで不当に安くしてもらったりといった不正を防止するための厳格な運用と言えます。
もっとも、不動産の計算方法・査定額は業者により大きく異なります。
無料で査定する業者は数多くありますので、できるだけたくさんの業者に見積もりを依頼して、金額の低い2社の査定書を提出するといった工夫は可能です。
というのも、自己破産手続の負担軽減のためには、不動産価値を正当な範囲内で低く評価する必要があるからです(詳しくは後述)。
なお、裁判所によっては、不動産が遠隔地にあったり、畑や山林などで不動産業者による査定が困難だったりする場合などには、固定資産評価証明書でもよいとするところもあります。
固定資産税評価額は、実勢価格の7割前後と低めに評価されていることが多いため、これが認められると自己破産手続の負担は軽減されるでしょう。
3.評価額が低いと負担軽減になる理由
不動産がある場合、基本的にはその配当処理のための破産管財人が必要となりますから、管財事件により自己破産手続が行われます。
しかし、管財事件は同時廃止よりも費用や手間がかかりますから、破産者としては、できれば同時廃止で手続を利用したいところです。
実は、不動産があっても、住宅ローン残高がマイホームの評価額よりも一定以上高額の場合、申立てに際して、「オーバーローン上申書」という書類を提出することで、同時廃止で自己破産の手続を行うことが出来る可能性があります。
住宅ローン残高がマイホームの評価額よりも高額であることをオーバーローンと言います。
オーバーローンの場合には、管財事件にして配当をしようとしても、住宅ローン債権者が抵当権に基づいて不動産を競売し、売却代金の全額を優先取得してしまいますから、他の債権者は不動産から配当を受け取ることができません。
そして、不動産以外に債権者に配当可能な財産がなければ、結局、他の債権者は一切配当を受け取れず、管財事件とした意味がなくなります。
そのため、このような運用が認められているのです。
もっとも不動産の評価額は、評価方法や査定業者により大きく異なります。
そのため、オーバーローンの程度が一定以上でなければ、確実に他の債権者が配当を受け取れない状態とは裁判所も認めず、管財事件での手続に振り分けています。
そこで、不動産査定書を取得する際には、複数の業者に査定してもらい、出来る限り安い査定書を手に入れる必要があるわけです。
4.不動産査定書と任意売却の関係
任意売却とは、競売の前に不動産を売却する手段です。住宅ローン債権者の合意が必要となります。
任意売却は、競売よりも有利な条件で不動産を売却できるため、不動産を手放さなければならない場合は是非この手段で売却をしたいところです。
この任意売却でも、不動産査定書は重要な役割を果たします。
(1) 任意売却の活用方法
任意売却は、破産管財人だけでなく債務者もすることができ、住宅ローンの有無にかかわりなくすることができます。
たとえば、オーバーローンではあるものの、裁判所が同時廃止を定める基準ほどではない場合、自己破産の手続が始まる前に債務者が不動産を任意売却して代金を住宅ローン債権者へ支払ってしまえば、同時廃止が認められる可能性が出てきます。
(※ただし、このようなことが認められるオーバーローン比率の基準が裁判所により違いますので、弁護士によく相談してください。)
また、任意売却の相手に法律上の制限はありませんので、親族に十分な財力がある場合、マイホームを適正な価格で任意売却したうえで借りることにより、自己破産前と同じように住み続けるということも可能です。
(2) 不動産査定書の役割
自己破産直前に不動産を売却すること自体は、問題にはなりません。
しかし、その金額が不当に安いと裁判所や破産管財人に判断されると、詐害行為という免責不許可事由に当たる恐れがあります。
詐害行為とは、債権者に配当されるはずの財産を他人に安く売却・譲渡などして、債権者への配当額を減らす行為です。
債権者全員に損害を与える行為であり、一歩間違えれば非常に悪質な免責不許可事由とされている財産隠しであるともされかねません。
任意売却した不動産の代金が、正当な不動産価格に基づいているものであり、任意売却も詐害行為に当たらないと裁判所などを説得するためにも、信頼できる不動産査定書をあらかじめ用意し、それに基づいて任意売却をする必要があるのです。
5.自己破産に必要な重要書類は弁護士に相談を
自己破産手続は、単に債務者の借金を無くすというだけでなく、財産を債権者に分配して債務者の財産状況を清算するという意味も持つ手続です。
そのため、債務者の財産の中でも非常に高額となりやすい不動産の価値を正確に裁判所や破産管財人に申告することは、手続上重要な意味を持ちます。
ここで説明した通り、不動産査定書は、不動産の価値を申告するための書類であり、不動産を持つ方が自己破産する際にはなくてはならないものです。
しかし、不動産査定書は、裁判所によりどのようなものを要求してくるかが異なりますので、弁護士などの専門家でなければ対応が難しいと言えます。
また、不動産査定書を活用して、手続負担を減らしたり、任意売却して居住を継続したりといった、自己破産手続のデメリットを軽減することができるかの判断や、その実現のための行動・やり方は、一般の方が単独で行うことは不可能に近いです。
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