東京と神奈川の個人再生の違い~手続の流れや費用、債務整理の効果~
個人再生手続を利用すれば、支払えない恐れのある借金を大幅に減額することができます。裁判所に、借金の一部だけを原則3年(最長5年)で支払う「再生計画」を認可してもらえれば、計画に従った返済を完了することで、残る借金を支払わないでよくなるのです。
個人再生手続は、マイホームなどの財産が処分されないなど、自己破産のデメリットを回避できる点でも、非常に優れています。
もっとも、個人再生手続は、とても複雑な手続です。返済額を決めたり、再生計画の認可条件を満たしたりしているかの判断が必要なためです。
しかも、各地の裁判所で、その運用が細かく異なっています。
そこで、このコラムでは、東京地裁と横浜地裁の手続の流れ・費用・再生計画で支払う金額を決める方法などの運用の違いについて解説します。
このコラムの目次
1.手続の流れ・スケジュール
個人再生手続の一般的な流れは、以下の通りです。
- 申立て
- 手続開始決定
- 再生計画の提出
- 再生計画の認可
- 計画に基づく支払い
大まかな流れは、法律で決められているので、東京地裁でも横浜地裁でもさほど違いはありません。しかし、細かい部分で、必要な対応が異なります。
(1) 東京地裁
東京地裁では、個人再生手続の申立て後に、必ず個人再生委員が選任されます。個人再生委員とは、個人再生手続の中で、裁判所を手助けする役職の人です。
申立人の借金や財産、家計を調査したり、再生計画の履行可能性(再生計画の履行可能性 将来、申立人が、手続で最低限支払わなければならないとされた借金の一部を、再生計画どおりに支払える可能性のこと)について、裁判所に意見を報告したりします。
東京地裁では、少なくとも申立て後の1回、個人再生委員と面談する必要があります。
再生計画が認可されるための条件の中で、最も重要なものです。
(2) 横浜地裁
横浜地裁では、申立人が弁護士に手続を任せていれば、個人再生委員が選任されることは、ほとんどありません。
弁護士を代理人としたのに、個人再生委員が選任されることがないわけではありませんが、非常にまれです。
一方、弁護士に依頼をしなかった場合には、必ず、個人再生委員が選任されます。
なお、個人再生委員が選任されなかった場合には、個人再生委員との面談は当然ありません。
ただし、横浜地裁の支部の中には、申立て後1~2週間してから、弁護士と申立人が裁判官と面談することを要求しているところもあります
2.費用
東京地裁と横浜地裁では、個人再生委員に関する運用の違いから、費用にも違いがあります。
(1) 弁護士費用:40万円~60万円
東京や神奈川の弁護士の間でさほど違いはありません。
(2) 裁判費用:2万5000円から3万円
東京地裁でも、横浜地裁でも、裁判所に納める収入印紙(申立手数料)や郵便切手にかかる費用は、さほど変わりません。
平成30年現在、2万5000円前後を基本として、債権者の数×100~200円程度を、申立ての際に裁判所に一括で納めます。
(3) 個人再生委員への報酬
東京地裁では、必ず個人再生委員の報酬の支払いが必要です。
横浜地裁では、弁護士がいれば、個人再生委員の報酬は原則不要です。
①東京地裁
- 弁護士がいる場合:15万円
- 本人申立ての場合:25万円
いずれも、履行テストによる支払いから支払われます。
履行テストとは、裁判所が、再生計画の履行可能性を判断するために、申立人に、再生計画での返済見込額を手続の間に実際に支払わせて、返済能力をテストするものです。
②横浜地裁
- 弁護士がいる場合:原則不要、例外的に個人再生委員が選任された場合は18万円
- 本人申立ての場合:原則18万円支払方法は、原則申立ての際に一括払いです。
分割払いも可能ですが、再生計画の履行可能性が認められるか怪しくなります。
東京地裁では、個人再生委員が指定した銀行口座へ、横浜地裁では、個人再生委員が選任されていなければ代理人弁護士の口座へ、選任されている場合には、個人再生委員が指定した銀行口座か、代理人弁護士の口座に積立をします。
3.再生計画上の返済額の計算方法
個人再生手続をしても、再生計画に基づいて、借金のうち一定額は、最低限支払わなければなりません。
金額の基準の代表例が、「最低弁済額」です。最低弁済額は、法律が借金総額に応じ定めている金額で、目安としては借金総額の5分の1です。
もっとも、「清算価値」という基準で計算された金額が、最低弁済額の金額を上回った場合には、清算価値による金額が、再生計画上の返済額になります。
(1) 清算価値とは
清算価値とは、申立人が自己破産したとすれば、裁判所に処分されると見込まれる、申立人の財産の金額です。債務者の全財産がそのまま清算価値となるわけではありません。
自己破産手続では、「自由財産」と呼ばれる、生活に最低限必要な財産は、処分されないことになっているからです。
たとえば、99万円までの現金や、家財道具などは、法律で自由財産とされています。
さらに、各地の裁判所は、追加で自由財産を認めるなど、運用が異なっています。
自由財産の範囲が清算価値に反映されるため、各地の裁判所で、清算価値の計算方法が異なることがあるのです。
(2) 東京地裁での清算価値の計算方法
東京地裁では、以下の財産が、全財産から差し引かれて、清算価値が計算されています。
- 現金(99万円まで)
- 価値が20万円以下の財産
東京地裁の運用では、価値が20万円以下の一定の財産も、追加で自由財産としているため、清算価値に含まれないのです。
(3) 横浜地裁での清算価値の計算方法
横浜地裁でも、99万円までの現金は、清算価値に計上されないことは、東京地裁と同じです。
しかし、それ以外の財産については、たとえ20万円以下の価値しかなくても、問答無用で全額清算価値に計上されてしまいます。
そのため、20万円以下の価値がある財産を持っている場合、東京地裁よりも清算価値が大きくなってしまいます。
4.不動産の評価方法
不動産は、清算価値に関して特に問題になります。
- 金額が非常に大きい
- 評価方法や業者により数百万円単位のブレが生じることは珍しくない
- 住宅ローンのほうが大きい場合には、不動産の清算価値は0円として扱われる
という特徴があるからです。
出来る限り安い査定を手に入れたいところですが、裁判所により、許される評価方法が異なっています。
(1) 東京地裁における不動産の評価方法
東京地裁では、不動産業者による査定が不可欠です。しかも、不動産業者は、裁判所が信頼できると認めた業者でなければなりません。
さらに、1社だけでは不十分で、少なくとも2社から査定してもらう必要があります。
そのため、不動産価格が高額に評価されやすくなっています。
(2) 横浜地裁における不動産の評価方法
横浜地裁も、原則としては不動産業者による査定により、不動産を評価しています。
もっとも、業者の査定より3~4割安くなることもある固定資産税評価額証明書の提出を認めることもあります。
田園地域などでは、不動産業者による査定が難しい場合があるためです。
5.地裁により運用がかなり異なる個人再生は弁護士に相談を
各地の裁判所は、東京地裁と横浜地裁のように隣り合う裁判所であっても、細かい運用が異なっています。
個人再生手続は、借金の負担軽減のメリットが大きく、一方で、デメリットが少なめになっている、「いいところ取り」の債務整理手続ですが、その代わり、その内容は複雑です。そのため、各地の裁判所の運用の違いが、一寸したものと思っていたら、様々な面に大きな違いをもたらす恐れがあります。
各地の裁判所の運用に精通した弁護士への依頼は、個人再生手続では重要なのです。
泉総合法律事務所は、首都圏に40近くの拠点を持ち、各地の裁判所の個人再生手続に関する詳細な運用実務に対応して借金問題を解決してきた、豊富な実績を持っています。
町田市、相模原市、横浜線・小田急線沿線にお住まい、お勤めの方で借金問題にお悩みの方のご来所、ご相談を、泉総合法律事務所町田支店のスタッフ一同心よりお待ちしております。
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