信用面でのリスクはどうなる?破産後にもう一度会社を作れるのか
経営していた会社を破産させてしまったが、もう一度、会社を設立して、同じ商売でリベンジを果たしたい、という方もいるでしょう。
しかし、新たに会社を設立して、同じ事業を続けることは可能なのでしょうか。また、その場合にはどのようなリスクがあるのでしょうか。
今回は、破産後にもう一度会社を作れるのかどうかについて詳しく解説します。
1.破産後に新会社を設立することは可能か?
結論から言うと、もう一度会社を設立して、事業を始めることは可能です。
そもそも、会社と会社の代表者(社長)とは別人格ですから、会社が破産を申し立てる場合に、破産の効果が及ぶのは会社だけで、代表者には何の影響もありません。
では、なぜ今回のようなテーマが必要になるかというと、多くの中小企業では「会社の破産=代表者の破産」という構図になるためです。
なぜかというと、日本では、金融機関が中小企業に融資する場合、代表者が連帯保証するケースがほとんどであるため、会社が破産すると、必然的に代表者に借金の返済義務が降りかかり、結局、代表者も一緒に破産せざるを得なくなるからです。
もちろん、代表者が会社の借金を返済すれば破産する必要はありませんが、通常、個人の収入で返済できるような額ではないので、会社の破産申立てにあわせて、代表者も破産するのが一般的です。
このように、少なくとも中小企業においては、「会社の破産=代表者の破産」を意味するため、今回のテーマは「会社の代表者は、一度破産した場合でも、再び会社を設立できるのか」と置き換えた方が分かりやすいかもしれません。
ちなみに上場企業などの大企業の場合は事情が異なり、ニュースなどによく登場する大企業の社長の皆さんは、通常、会社の借入金の連帯保証をしません。
2.破産者になっても会社を設立できる
そもそもの話ですが、破産制度は借金を返せなくなったことに対するペナルティではありません。借金の返済が不可能になった個人が、法的な手続きのもとで借金を清算し、生活を再建するための手続きです(なお、会社など法人の場合は、破産によって消滅するので「再建」という目的はありません)。
したがって、現行の法制度上、破産した人が新たに会社を設立することに対し、特に制限はありません。
もちろん、本来的に経営者に向かない方もいるとは思いますが、一度事業に失敗したからといって、再チャレンジを禁じる必要まではありません。再びチャレンジできる社会の方がむしろ健全だといえるでしょう。
また、現実的な問題として、長年のキャリアや人脈を捨てて別の仕事に就くよりも、同じ業界で同じ事業を再開する方が生活の再建につながりやすいのです。
3.会社設立のハードルは低い
かつて株式会社を設立するためには資本金1000万円以上(有限会社は300万円以上)、取締役を3人以上そろえる必要がありました。今でもこの条件をクリアする必要があると誤解している人も多いのではないでしょうか。
平成18年に会社法が施行と同時に最低資本金は廃止されたため、今では資本金1円とすることも可能です。また、取締役も1人いれば株式会社が設立できるようになりました。
もちろん、資本金1円、取締役1名の会社では、信用上の問題はないとはいえませんが、少なくとも「株式会社」という法人を設立すること自体は、以前よりもずっとと簡単になっています。
制度上は、破産後に会社を設立することは可能です。しかも、資本金や取締役の員数のハードルも下がり、簡単になっています。
たとえば、A株式会社が破産し、A株式会社の代表者が新たにB株式会社を設立して、以前と同じ事業を始めることも可能です。もちろん、取引先の中には、一度会社を破産させたような代表者とは取引できない、という場合もあるでしょうが、実務上は、新会社と取引をしてくれるケースも意外と多いのです(以後、「A社」、「B社」と表記します)。
この事例で、あなたがA社に多額の事業資金を貸し付けた債権者だとしましょう。
A社が破産してしまったため、貸付金の回収を諦めかけていたところ、「A社の代表者が、新たにB社を設立している。同じ従業員を雇い、同じ取引先を相手に営業して、しかも大儲けしているらしい。」という情報を耳にしたら、あなたはどう感じでしょうか?
「A社の借金を帳消しにするために破産し、B社を設立したのではないか?」という不信感も出てきそうです。
しかし、A社とB社は、あくまで別個の法人ですから、たとえ代表者が同じであっても、A社の債権者であるあなたが貸付金の返還を請求できるのはA社のみです。
また、A社が破産した場合には、通常は破産管財人が選任され、A社の財産は金銭に換えられて債権者に配当されます。破産手続きの中でA社の財産は適切に処分されているので、その後に、同じ代表者がB社を設立して、事業を再開しても何ら問題はありません。
従業員や取引先は、おそらくその代表者を信頼して、また同じ事業に加わったのでしょう。その代表者によほど人望があるのかもしれません。
4.「法人格否認の法理」とは
さて、制度上は新たに会社を設立しても問題ないとはいえ、十分に注意しないとかえって大きなトラブルを抱えることになってしまいます。この先が重要なポイントです。
先ほど説明した原則に従えば、A社とB社は独立した別個の法人ですから、A社の負債を返済する義務を負うのは当然にA社ということになります。
しかし、実質は同じ営業実態であるのに、「A社とB社は別の法人格だ」という理屈を濫用的に主張することは許されない、というルールがあるのです。その結果、B社はA社の借金を返済する義務を負う、ということになります。これを「法人格否認の法理」といいます。
B社の経営者が、A社の営業用財産を使って収益を挙げておきながら、「A社の借金だからB社には返済義務はない」とちゃっかり借金の返済だけ拒むことはできない、というわけです。
参考までに、法人格否認の法理が認められた最高裁昭和48年10月26日判決の一部を引用します。
「旧会社の営業財産をそのまま流用し、商号、代表取締役、営業目的、従業員などが旧会社のそれと同一の新会社を設立したような場合には、形式的には新会社の設立登記がなされていても、新旧両会社の実質は前後同一であり、新会社の設立は旧会社の債務の免脱を目的としてなされた会社制度の濫用であって、このような場合、会社は取引の相手方に対し、信義則上、新旧両会社が別人格であることを主張できず、相手方は新旧両会社のいずれに対しても債務についてその責任を追求することができる」
この事例は、商号まで同じ(A社を潰して、新たにA社を設立した)という極端な例ですが、やはり債権者にしてみれば、一度倒産したはずなのに、また新しい会社で同じような商売をやっているというのは、心穏やかではないのです。
5.会社の破産・設立のお悩みは泉総合法律事務所へ
会社の経営が苦しいと、つい目先のことだけ考えてしまいがちですが、将来的な事業再開の可能性があれば、先々の展開も含めて弁護士に相談しておくべきでしょう。相談の時期が早ければ、破産以外の選択肢を検討する余地もあるかもしれません。
また、会社が倒産した後に、新会社を設立して営業を続けること自体は可能ですが、やり方を間違えると、債権者との間でトラブルになる可能性もあります。たとえ、法的には正当であったとしても、やはり債権者とのいざこざは避けたいものです。
こうした不幸な展開を避けるためにも、会社の破産だけでなく、設立の際にも弁護士に相談しておくことが望ましいといえます。
法人破産関連の事案でお悩みの方は、実績豊富な泉総合法律事務所の弁護士に是非ともご相談ください。
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