少年事件の逮捕後の流れと弁護士ができること
SNSなどの普及により、未成年の子供が犯罪に巻き込まれる、或いは犯罪に加担してしまう案件が多発しています。
では、もし我が子が少年事件を起こして、逮捕されてしまった場合、親としてはいったいどうすればいいのでしょうか?
通常の成人による刑事事件は、罪の有無の確定と、罪がある場合には、その罪に応じた刑罰を科すことを目的として、地方裁判所もしくは簡易裁判所の公開の法廷で刑事裁判が行われます。
一方、少年事件では、少年をできるだけ教育して更生させることを目的とする教育主義に基づいて、手続きが定められています。例えば、担当する裁判所は家庭裁判所少年部となり、家裁調査官等少年の扱いに特化した技能と知識を有する職員が置かれています。また手続は非公開です。
ここでは、少年犯罪、特に「犯罪少年(罪を犯した14歳以上20歳未満の少年)」に関する事件について、解説します。
このコラムの目次
1.少年事件とは
少年事件には、3つの分類があります。
- 犯罪少年……罪を犯した14歳以上20歳未満の少年
- 触法少年……刑罰法令に触れる行為を犯したが、その行為のとき14歳未満であったため、法律上、罪を犯したことにならない少年
- ぐ犯少年……20歳未満で保護者の正当な監督に従わないなどの不良行為があり、その性格や環境からみて、将来罪を犯す恐れのある少年
少年事件は、その少年の「要保護性」を判断します。要保護性とは、端的に言えば、国家が少年の保護者に代わって教育を施したり、保護者の教育に助力したりする(これら国家の介入を保護処分といいます)必要の度合いです。
少年が犯した罪の内容は、「非行事実」と呼ばれます。非行事実は、要保護性の判断要素の一つであり、その他にも、成育歴、家庭環境なども調査され、保護処分が必要であるか否かの判断の材料になります。
捜査機関で非行事実の捜査がなされた後、家庭裁判所の手でその他の事実の調査がなされ、それを前提として非公開の法廷で審判がなされます。
(審判とは、少年事件をしめくくる手続きの名称でもあり、その最後に裁判官の示す判断の名称でもあります)
審判での処分は、少年の保護を目的とするものであって、刑罰とは異なります。少年の自由を制約するものも含まれますが、成人に対する懲役刑や禁固刑とは異なり、収容施設そのものが開放的であったり、少年に課される活動に施設外での学習や交流が多々含まれたりと、教育的配慮が優先されています(要保護性の程度によります)。
なお、刑罰を受けなければならないほどの一定の重大事件では、家庭裁判所の判断で再度検察官に送致されて刑事裁判を受けることになります。
2.少年事件における逮捕後の流れ
逮捕された場合の少年事件の流れは下記のとおりです。
- 逮捕:72時間(成人と同じ)
警察から検察への送致(送検)まで:48時間
送検から裁判所への勾留請求まで:24時間- 勾留or勾留に代わる観護措置
勾留の場合:原則10日、最大20日(成人と同じ)
勾留に代わる観護措置の場合:10日間
(※ここまでで、非行事実の捜査が行われます。)- 家裁送致
事件が家庭裁判所に送られます。
(※非行事実そのものが存在しないような場合を除き、必ず送られます。)- 観護措置
少年鑑別所に原則最大28日間(手続きに特別に時間がかかる事案は最大56日間)、身柄拘束されます。家庭裁判所が鑑別所での調査が必要であるか独自に判断して実施するか否か決めますので、捜査段階で逮捕・勾留されていなかった場合でも観護措置を受けることはあり得ます。
(※この間に、家庭裁判所の調査官による社会調査として事情聴取や関係各所への照会、及び観護措置が行なわれた場合には鑑別所技官による心理テスト等が行われます。)- 審判不開始(事件終了)もしくは審判
捜査結果と社会調査の結果から要保護性が判断されます。
最終的に、以下のいずれかの判断がなされます。
- 不処分
- 保護処分(保護観察or少年院送致or児童自立支援施設送致)
- 検察官送致
- 試験観察
3.少年事件において弁護士ができること
(1) 少年へのアドバイス
弁護士は、捜査段階では成人の刑事事件と同様「弁護人」として活動し、事件が家庭裁判所に送致されてからは「付添人」として活動します。審判にも付添人として出席します。
親を含む一般の人は逮捕による身柄拘束期間中に面会できないのですが、弁護士は少年と面会できます。
逮捕されて動揺しているであろう少年にいち早く面会することで、少年を支えてあげることができ、少年の言い分を充分に聞き取って、今後の方針を決めることができます。
弁護士は、捜査段階においては、取り調べへの対応(黙秘権、調書の訂正、署名押印の拒否など)についてアドバイスすることになります。
また、身柄拘束からの解放を求め、少年にとって有利な情報を集めるなど、成人の刑事事件と同様に非行事実についての弁護活動をします。
付添人としては、調査官の社会調査を受ける上でのアドバイスや、審判におけるアドバイスをするとともに、少年との対話を通じて、問題点を探り解決案を考えることで、社会生活を送りながら、少年の更生していく道はないかと考えていくことになります。
(2) 親御さんへのアドバイス
少年事件では、成年の刑事事件と異なり、親御さんが手続きにかかわらなければならないことが多数あります。
特に成年の刑事事件と異なるのは、親御さんも調査官による社会調査の対象であること、及び審判の際には、出席しなければならないことです。
そこで、弁護士は、親御さんに対して、少年との面会や差し入れに関するアドバイスの他に、調査官の調査への協力に関するアドバイス及び審判に出席する場合の注意点についてアドバイスします。
このようなアドバイスを通じて、親御さんを精神的に支えていくことができるのです。
特に、少年事件に詳しい弁護士は、目前の事案の処分を軽くするにはどうすればいいのかという観点だけではなく、本当に子供が更生し、二度と繰り返さないようにするためには、本人及び家庭にどのような変化が必要なのかという観点からも、有用なアドバイスをすることができます。
(3) 学校への対応
子供が逮捕された場合、親御さんは、「学校に知られたくない」と考えると思います。
しかしながら、現在は、「学校・警察相互連絡制度」という制度が、多くの自治体で採用されています。
学校・警察相互連絡制度は、警察が逮捕又は補導した少年の非行概要を学校に連絡することで、教育現場における指導に反映させ、再非行防止及び健全育成並びに関連する非行等による被害防止・拡大防止を図るために導入されたものです。
もっとも、すべての事案が報告されるわけではなく、学校の所属する都道府県又は市の教育員会と警察本部が交わした協定で定められた要件を満たす事案に限られますし、要件を満たしたとしても、個々の事案の内容や少年の反省の程度などを総合的に評価した上で、警察は学校へ連絡するかどうかを決めていると言われます。
そこで弁護士は、非行事実が未だ学校には知れていないような場合には、まずは担当の警察官と面談し、少年の更生のために、学校には連絡しないよう求めていくことになります。
それでも、学校に連絡されてしまった場合には、弁護士が学校に説明に行くなどの対応をすることにより、警察側の一方的な言い分だけではなく、少年側の言い分もきちんと学校に伝えることができます。
弁護士が非行事件の内容や少年の反省の状況などを説明し、学校の処分が重くならないよう求めていくことになります。
一方で、法律の規律する刑事手続や少年手続とは異なり、学校の処分は内部の規則によるものになりますから、調査や判断の仕組み、異議申し立ての手続き等が十分被処分者の利益に配慮されていないことがあります。特に処分がなされた後で弁護人が着任したような場合には、一旦なされた決定を覆すことが困難であるおそれがありますので、可能な限り速やかな対処が望ましいです。
(4) 早期釈放のための活動
早期釈放のためにできることは、捜査段階にあっては、成年の刑事事件と同じく、勾留請求の阻止(検察官に勾留請求しないように求める)、勾留決定の阻止(裁判官に勾留請求を却下するように求める)という弁護活動になります。
少年事件に特有のものとしては、観護措置の審判の前に、裁判所に意見書を提出して、観護措置決定をしないように求めたり、観護措置取消の申立、観護措置決定に対する異議申立を行ったりという弁護活動もあります。
いずれの段階においても、一旦なされた身柄拘束を認める決定に対しての異議申し立てが可能である場合には、弁護人または付添人はこれを検討します。
(5) 被害者との示談交渉
成人の刑事事件では、被害者がいる事件では、被害者との示談が最も重要であると言えます。
しかし、少年事件においては、少年の更生が重視されますので、成人事件ほど示談が大きなウェートを占めるということはありません。成人なら示談ができていれば処分されないような事案でも、少年の場合審判を避けられないことはよくあります。
だからといって、少年事件では示談をしなくてよいというわけではありません。
少年事件の審判においても、非行事実の内容は問題になります。
そこで、被害者に対して、謝罪したか、被害は回復したか、被害者の処罰感情はどうかという点は、処分を決める上での重要な判断要素になります。
少年が自分の犯した罪に向き合って反省することができているか、どのように被害者に対して謝罪したかということは、少年の更生のためにどのような保護処分が必要かということを判断する資料になるのです。
また、示談金を準備するのは、たいていは親御さんということになりますが、親御さんが被害者に対して、謝罪の気持ちを持って行動しているということは、少年をきちんと更生に導いていける親である、つまり、国が介入しなくとも、親元で更生させることができるということを示す一つの判断材料にもなります。
審判までの間に被害者に謝罪し、示談するためには早急に弁護士に依頼する必要があります。
(6) 調査官の社会調査に対する対応
事件が家庭裁判所に送致されると、家庭裁判所の調査官による社会調査があります。
この社会調査は、家庭環境や成育歴などの調査を通じて、少年自身及び少年の環境の問題点を探り、なぜ少年が非行に陥ったのか、再び非行に陥らせないためにはどうすればよいのかを検討するためのものです。
その上で、調査官は、処分に対する意見書を作成します。調査官の意見は、裁判官の審判による処分に強い影響を及ぼします。
その社会調査のために調査官は、少年や親御さんと面談するだけではなく、必要があれば、現在通っている学校の教師などと面接したり、関係先に照会書を発送したりすることもあります。
弁護士は、状況によっては、調査官に対して、非行を学校に知られることで、かえって少年の更生を阻害する可能性を指摘し、学校に知られないようにしてほしいと要望します(実際に学校に知らせるかは調査官の判断によります)。
(7) 審判での対応
付添人は、審判に出席しますし、審判においては、付添人の意見をまとめた「意見書」を提出します。
意見書では、非行事実に対する捜査に対する少年側の言い分、調査官による社会調査の結果だけでは足りない部分、少年の言いたいことを盛り込み、また、少年や家庭の問題点と解決策を提示することにより、社会の中での更生が可能であることをアピールしていくことになります
4.まとめ
少年事件は、成年の刑事事件とは違う特殊なものです。
早期に少年事件にくわしい弁護士に依頼することによって、事案の内容に応じて審判不開始や不処分、保護観察処分を得られる可能性が高まります。
泉総合法律事務所では、これまで、少年事件の弁護にも多く携わってまいりました。
お子さんと親御さんの双方をしっかりサポートいたしますので、少年事件でお悩みの方はぜひ一度弁護士にご相談ください。
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