子どもの高次脳機能障害|後遺障害等級認定のために注意すること
お子様が交通事故で高次脳機能障害となってしまった時には、大人が同様になってしまった時よりも多く気をつけるべき点があります。
具体的には、以下のようなことです。
- 様子をよく観察して医師に伝える
- 学校と連絡を取り合う
- 勉強だけでなく行動や性格の変化にも気を遣う
- 長い目で症状を把握する
ここでは、子どもの高次脳機能障害で後遺障害等級認定をする際の注意点についてわかりやすく説明します。
1.子どもの高次脳機能障害は症状に気付きにくい
子どもの高次脳機能障害の最大の注意点は、ご家族ですら障害が残っていることに気付きにくいことです。
障害に気付けなければ治療が遅れてしまいますし、後遺症が残ってしまっても証拠集めに支障が生じ、満足のいく損害賠償請求ができなくなるおそれがあります。
高次脳機能障害の症状は、以下のようなものです。
- 「認知障害」周囲の状況を認識して適切な対応を取りにくくなる、
- 「社会的行動障害」他人と適切な関係を作り集団生活を過ごすうえで必要な感情コントロールや協調性などが低下してしまう
社会の中で生きる人間として必要な脳の機能が低下してしまいますから、仕事にも私生活にも大きな悪影響が生じてしまいます。
もっとも、人間だれしも長所と短所はあるものです。事故前の被害者様のことをよく知らず、事故後の生活の状況を把握しにくい医師の立場では、なかなか症状に気付きにくいといえます。
子どもとなると、さらに分かりにくくなってしまいます。
子どもの高次脳機能は成長途中です。日常生活の中で、家庭では保護者、学校では担任の教師など周囲の大人に助けられています。
そのため、ご家族などもともとお子様のことをよく知っている方でも、まだ子どもだからこんなものだろうと考えて症状を見逃してしまうおそれがあるのです。
それでも、事故前のお子様の様子を思い出しながら、事故後の言動を注意深く観察すれば、違和感には気付けるはずです。
事故から一定期間が経過したころ、事故前にはできていたのになぜかできなくなっている・以前より子どもっぽくなっているなどの違和感があれば、すぐさま医師に伝えて精密検査を実施するようお願いしてください。
後遺障害等級認定手続では、主に脳のMRI検査結果などにより、交通事故で脳が損傷していることを証明する必要があります。事故による衝撃を受けてから時間が経過していないうちに検査をしなければ、MRI検査をしても異常が見つかりにくいことが多いのです。
医師に説明する際には、違和感のあるお子様の言動を、そのときの周囲の事情を含めたエピソードとして組み立ててください。
高次脳機能障害の症状は、高次脳機能が低下したために周囲の環境にうまく対応できないことそのものです。症状を説明するうえでは、実際にあった問題行動を周囲の様子を含めて描写することが何より大切になります。
参考:高次脳機能障害、いつ・どんなMRI検査を受けるべき?
2.学校全体との情報共有
学校との関係で注意すべきことは、できる限り早くから学年主任や校長など、より幅広い権限を持った教師と連絡を取り合い、担任が変わっても情報の共有・引継ぎがスムーズにできるように準備をしておくことです。
高次脳機能障害の症状の重さを把握するうえでは、家庭内の様子だけでなく、学校での様子も大切です。
学校での生活が始まると、お子様は事故前になかった問題行動により、学習面のみならず学校行事や友人関係でトラブルを引き起こしてしまい、不登校やいじめなどに発展してしまうおそれがあります。
学校は家庭を離れてお子様が集団生活をしながら学習をする場。そこで生じたトラブルの内容や程度は、将来のお子様の人生に高次脳機能障害がどれだけ悪影響を及ぼすのかを判断するうえで重要な役割を果たします。
事故時や学校復帰の際の担任とはすぐに話をしていらっしゃると思います。
しかし、高次脳機能障害の症状は、事故時と症状がこれ以上回復しなくなった「症状固定」のときのお子様の様子を比べて考えるもの。
子どもは回復力が強く、周囲の環境の変化が激しいため、症状固定までの時間が大人よりも長くなる傾向が強くなっています。
症状固定のころには、進学進級などにより担任が変わっていることも珍しくはないでしょう。
新しい担任の教師は事故前のお子様の様子が分かりません。
事故前の教師と緊密に連携してお子様の症状に関する報告書を作成してもらうためには、事前に学校を通して話をしておくべきです。
なお、学校に関することといえば第一に勉強の問題を考えてしまいがちですが、学校では勉強以外の問題も明らかになります。
テキパキと効率的に物事を処理する能力や、体を思うように動かす能力はどうでしょう?
図工で本棚を組み立てられない・体育で縄跳びや鉄棒が苦手になるなど、事故前と比べて明らかに問題が起きてしまっていることがあれば具体的に記録しておくよう、担任に伝えておきましょう。
学校で生じやすい問題として残るものがコミュニケーション能力に関する問題です。
すぐに怒ったり泣いたりする・自己中心的になる・クラス行事に無関心になるなど、、集団行動への姿勢も決して見逃してはいけません。
3.損害賠償請求の時期にも注意
症状がこれ以上回復しなくなった状態である「症状固定」。原則として医師の判断が尊重されますが、あくまで損害賠償請求をするための基準となる概念ですから、最終的には裁判所が判断する法的な事柄です。
子どもの高次脳機能障害では、医師がいったん症状固定したと判断した後でも、進学や進級、就職を機に、症状が本当はもっとひどいとわかることは珍しくありません。
いったん治療を終えてもう大丈夫だと思っていたものの、学習・人間関係・集団生活の変化が起きたときにはじめて、低下していた高次脳機能が日常生活にトラブルを引き起こすことがあります。
症状固定まで時間がかかることは、後遺障害等級認定や損害賠償請求をいつするか判断するうえで悩みの種となります。
基本的には、1年以上お子様の様子を見ることができればよいのですが、示談交渉を早く終わらせてお金を早く手に入れ、医療費やリハビリ費用に充てたい、不安定な状況から解放されて落ち着きたいというお気持ちもわかります。
しかし、焦ってお子様の症状が本格的に表面化していないうちにすべてを終わらせてしまうと、適切な損害賠償金の支払いを受けられないおそれがあります。
のちにお子様の高次脳機能障害の内容・程度が思っていたものより悪いとは発覚したときに備えて、示談交渉では再交渉の余地を残さなければいけません。
保険会社としてはさらに保険金を支払わなければならない事態を避けようとしてくるでしょうから、弁護士に相談して、将来の見通しを踏まえ、示談交渉の再開が可能となるような和解ができるようにしてください。
4.まとめ
もともと高次脳機能障害は後遺障害の中でも後遺障害等級認定や示談交渉が難しいとされていますが、お子様が高次脳機能障害となってしまったとき、特に見通しがつきづらい様々な問題があります。
「激しい事故で頭部に物理的な打撃を受け、明らかに症状があり、事故直後に重い意識障害があった、または画像検査結果で異常があった」…このような事情があれば、認定を受けられる可能性はあります。
それでも、次は妥当な等級に認定されるか、保険会社との示談交渉を戦い抜けるかという問題があります。
お早めに法律の専門家である弁護士に相談しつつ、医師や教師、リハビリの専門職とのコミュニケーションをとり、認識を共有しながら、日々のお子様の問題行動を記録に残し、症状を証明できるようにしておきましょう。
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