物損事故のままだと多大なリスクが!人身事故への切り替え方法
交通事故に遭った際、事故現場でまずすることといえば、110番通報をして警察に連絡することだと思います。
110番通報をすると、事故現場に近い警察署から警察官が派遣され、当事者は事情を聞かれることになります。
このとき警察官は、事故当事者から事情を聞くことができ、目に見えて大きなけがを負っているような状況がなければ、「物損事故」として処理をすることが一般的です。
交通事故で最も多いけがはむち打ちであると言われており、このむち打ちは、外見からはけがを負っていることが分かりません。このため、例え被害者がむち打ちになっていたとしても、発生した交通事故の多くが「物損事故」として処理されることがほとんどです。
そして、被害者が、事故現場を離れた後に痛みを感じて医療機関を受診したとしても、被害者の方で人身事故に切り替えるための手続をとらないと、物損事故で処理されたままになってしまっているのが実情です。
では、被害者の立場からは、けがをしているにもかかわらず物損事故として処理されたままでもよいのでしょうか? 人身事故に切り替える手続をとる必要はないのでしょうか?
結論からいうと、被害者の方は、人身事故に切り替える手続をとるべきです。以下では、その理由について詳しく解説します。
このコラムの目次
1.物損事故の確認方法
交通事故が発生し、警察に報告すると、各都道府県の交通安全運転センターから「交通事故証明書」が発行されるようになります。
交通事故証明書は、交通事故が起きたという事実を証明する書類で、事故発生の日時、場所、当事者の氏名などが記載されているとても重要なものです。この交通事故証明書に「物損事故」、「人身事故」のいずれかであるかも記載されており、物損事故として処理されていることは交通事故証明書の記載を見れば確認することができます。
2.物損事故として処理されたままにしておくリスク
事故後、加害者から「人身事故扱いにしないでください」などとお願いされることがあると思います。
人身事故は、自動車運転過失傷害罪という犯罪で刑罰を受ける可能性があり、また、免許停止などの行政処分を受ける可能性があるからです。特に、免許停止の行政処分を受けることは、職業によっては死活問題になりかねません。
加害者としては、物損事故で処理されたままにしてもらうことにより大きなメリットがあるのです。
他方で、物損事故として処理されたままであることは、被害者にメリットはないと言わざるを得ないでしょう。それどころか、物損事故として処理されたままにしておくと、以下のようなリスクがあります。
(1) 軽微な事故であると判断されてしまうリスク
物損事故として処理されたままだとしても、事故後、直ちに医療機関を受診し、通院を続けているのであれば、事故によってけがを負ったことはほとんど明確で、その事実を争われるということはあまりありません。
しかし、事故から医療機関を受診するまで日にちが空いていると、それが事故によって負ったけがなのかどうかが争われ、そのとき、物損事故として処理されていることを逆手に取られて「物損事故として処理されているだろう!」と主張されてしまうことがあります。
物損事故は、あくまで物だけが壊れる事故ですから、人身事故の場合に加害者に対して請求できる通院交通費、通院慰謝料、休業損害…といった損害の賠償を一切請求できず、被害者にとって大きな不利益となります。
また、事故によってけがを負ったことは争いがないとしても、物損事故として処理されたままであることはあらゆる面で影響してきます。
例えば、加害者側は、物損事故として処理されていることを理由に、けがが軽微であるとして、治療費の支払いの打ち切りを通告してきたり、賠償交渉においても、通院慰謝料を減額しようとしたりする可能性があります。
通院慰謝料は、原則として通院期間を基に算出されるので、痛みがあるのであれば、できる限り長く通院したほうが良いです。また、けがが軽微である場合、通院期間ではなく、実際に病院に通院した日数で通院慰謝料を計算する場合もあるので、けがが軽微であると判断されてしまうことは被害者にとって大きな不利益となります。
(2) 過失割合の認定の根拠となる資料が作られないリスク
前提として、まずは過失割合についてご説明します。
交通事故における過失割合とは、発生した交通事故に対する事故当事者の責任(不注意、過失)の割合のことです。
例えば、自動車に乗って信号待ちで停止中、後方から追突された場合、追突された自動車の運転者には、不注意、過失は一切ありません。一方、信号機のない交差点で自動車同士が正面衝突した場合、どちらの自動車の運転者にも不注意、過失があったと言わざるを得ません。
このような場合に、どちらの運転者がどれだけ不注意、過失が大きいかを決めるのが過失割合です。
過失割合は、実際の事故と類似した過去の裁判例を基準として、実際の事故状況に応じて割合を修正しながら決定していきます。そのため、本件の事故状況が争いになることが多いです。
この事故状況を判断する際に、裁判所が重要視しているのが、警察官が作成した実況見分調書という書類です。
人身事故として処理する場合、事故現場に到着した警察官は、事故がどのような原因で発生し、どのような結果となってしまったかを記録するために実況見分を行い、後日、実況見分調書を作成します。裁判所は、この実況見分調書通りの事故状況を認定するといっても過言ではありません。
しかしながら、警察官が物損事故として処理する場合、当事者双方から話を聞いただけで現場から引き上げ、後日、物件事故報告書をいうものを作成するに過ぎません。
このように、物損事故として処理された場合、過失割合を認定するに当たって最も重要な資料である実況見分調書が作成されなくなってしまうのです。
3.人身事故に切り替える方法
医師に診断書を作成してもらう→警察に届け出る→実況見分が行われる→自動車安全運転センターが人身事故として新しい事故証明書を作成する
(1) 医師に診断書を作成してもらう
まずは、医師に診断書の作成を依頼して、診断書を作成してもらいましょう。
医師には、「警察に提出するために診断書の作成をお願いします」と言えば作成してもらえます。
(2) 事故現場を管轄する警察署の交通課に行く
医師に作成してもらった診断書を持参し、事故現場を管轄する警察署の交通課に行きましょう。事故当日、臨場した警察官に所属の警察署を確認しておくと良いです。
交通課に行けば、警察官が必要な手続を指示してくれます。
(3) 実況見分に立ち会う
人身事故に切り替えたいとの申告を受けた場合、警察は、被害者と加害者双方と日程調整をし、双方立会いの下で、事故現場の実況見分をしますので、実況見分に立ち会いましょう。
先ほどご説明したとおり、過失割合が問題となる事故では、警察が作成した実況見分調書が非常に重要になるのですが、警察官は、実況見分の図面を見せてくれるわけではありません。そのため、後日、実況見分の際に伝えたことと異なる内容の図面が作成されてしまっていたということが有り得るので、記憶に基づいて事故の内容を正確に伝えるようにしましょう。
なお、被害者と加害者の日程が合わないと、別々の日に実況見分が行われることがありますが、この日には無理をしてでも立ち会うようにしましょう。
なぜなら、当事者双方がいる中で、矛盾した話が出てきた場合、警察官はその場で指摘をし、訂正を促すことが可能ですが、当事者の一方しかいない場合、そのような契機がなくなってしまい、都合のよいように実況見分調書が作成されてしまうからです。
(4) 新たに交通事故証明書を取得する
実況見分を実施してから少し経つと、交通安全運転センターから交通事故証明書が取得できるようになるので、取得し、「人身事故」の記載に変わっていることを確認してください。
取得方法は、①交通安全運転センターのHPから申請をする方法と、②交通安全運転センターで直接申し込む方法があります。
②は、全国どこの交通安全運転センターでも申請ができるのですが、①は、HPから申請した後、7日以内に最寄りの金融機関やコンビニで手数料(540円+払い込み手数料)を支払うことで自宅まで郵送してくれるので、お手軽だと思います。
(5) 交通事故証明書を加害者側の任意保険会社に提示する
人身事故に切り替える最大の目的は、損害賠償金の交渉を有利に進めることです。
交通事故証明書を取得したら、加害者の加入する任意の自動車保険の保険会社に口頭で伝え、必要であれば交通事故証明書の写しを送付しましょう。
(6) 注意点
物損事故から人身事故へ切り替えを行う際には、早めに医師に診断書を作成してもらい、手に入ったらすぐに警察署に持参するようにしましょう。
事故から時間が経つと実況見分の際の記憶が薄れてしまうのももちろんですが、事故から日にちが経っていると、診断書を受け付けてくれない警察署もあるようです。
もし、警察に人身事故への切り替えを拒否されてしまった際でも、保険会社に後から怪我や痛みが生じたことを連絡すれば、切り替えなしでも怪我の補償に応じてくれる保険会社もあります。しかし、その場合には、人身事故証明書入手不能理由書の提出が求められることがあります。
また、人身事故証明書入手不能理由書は、被害者自身で後に自賠責に保険金の支払いを求める時にも使用するので、人身事故への切り替えができなかった際には覚えておきましょう。
4.人身事故への切り替えは弁護士に相談を
以上、交通事故の被害に遭った際、物損事故として処理されたままにしておくリスクと人身事故に切り替えるための手続きをご説明しました。
手続きには手間がかかってしまいますが、加害者から適切な賠償を受けるためにも、後からけがが発覚した場合には、早めに人身事故に切り替える手続きをとるようにしましょう。
人身事故への切り替え方法でお悩みだったり、保険会社から適正と思えない金額の慰謝料額を提示されたりした際には、一度弁護士にご相談ください。交通事故に詳しい専門家が、被害者の方の利益になるよう精一杯サポート致します。
泉総合法律事務所には、交通事故の解決実績豊富な弁護士が多数在籍しておりますので、どうぞ安心してご相談ください。
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