後遺障害の認定を受けるため「経過診断書」で注意すること
交通事故で後遺症が残ったときにさらに損害賠償金を手に入れるには、「後遺障害等級認定」を受ける必要があります。
後遺障害等級認定を受けるには、「後遺障害診断書」だけでなく、「経過診断書」という診断書も重要な役割を果たします。
特にむち打ちや高次脳機能障害など、後遺障害としての認定が微妙なケースでは、その記載が認定の決め手になることもあります。
ここでは、経過診断書が交通事故の損害賠償手続で果たす役割、経過診断書が持つ問題点、経過診断書の重要な項目などについて、分かりやすく説明しましょう。
このコラムの目次
1.経過診断書とは
「経過診断書」とは、交通事故の治療中、たいていは一か月ごとに、定期的に病院から加害者側の任意保険会社に直接送付される診断書です。
(1) 任意保険会社の情報源になる
多くの場合、任意保険会社は、自賠責保険会社から支払われる保険金と任意保険会社自身が支払うべき保険金を合わせて先払いする「一括払い」という制度を被害者に提供します。
そして、一括払いの金額を判断するため、任意保険会社は被害者の方から手に入れた同意書に基づいて経過診断書を病院から取得します。
保険会社は、経過診断書の内容を確認して、もう怪我が治った、あるいはこれ以上治らない「症状固定」の段階になったと判断すると、一括払いを打ち切るのです。
(2) 後遺障害認定のための証拠になる
経過診断書は、後遺障害等級認定の必要書類でもあります。
最初の経過診断書を見れば、以下のような事項の判断材料となるのです。
- 初診日
- 症状発生日
- 初期の症状の具体的な内容
- 後遺症と交通事故との因果関係
- 後遺症の症状
また、全ての経過診断書の記載を初診時から治療終了まで確認していけば、以下がどのように変わっていったかが分かります。
- 自覚症状
- 検査結果など「他覚的知見」
- 治療行為(投薬や施術、手術など)
- 医師の診断(「医学的所見」)
自覚症状や治療内容の推移などから、「症状の部位や内容が一貫しているか」「症状がどんなときでもあるか」「症状の推移状況」「自覚症状と検査結果、治療行為に整合性があるか」など、後遺症が残っているかどうか認定するためのポイントを把握することもできます。
(3) 被害者がチェックできないことに注意
経過診断書は、治療中の期間に作成される診断書です。最終的に後遺症についての診断をする「後遺障害診断書」という診断書に比べると、手続の中での重要性は一歩劣ります。
それでも、認定の判断材料になることに変わりはありません。
しかも、経過診断書は、後遺障害診断書よりも厄介な問題として、被害者が内容をチェックできないという問題点があるのです。
経過診断書は、病院から保険会社に直接送付されるものです。作成を依頼するのも受け取るのも被害者の方ではなく保険会社だからです。
被害者の方や弁護士が事前に内容を確認することはできず、事後的な修正も非常に難しいでしょう。
そのため、経過診断書に後遺障害の認定に不利な記載があった場合、非常に厄介なことになります。
せめて診察のときに、経過診断書の作成についてどのような点についてどう記載して欲しいかを話しておきましょう。
2.経過診断書の重要な項目
経過診断書にはどのような項目が記載されるのでしょうか。
(1) 傷病名
医学上認められた傷病名が記載されます。むち打ちなら、「頚椎捻挫」などの傷病名が記載されるでしょう。
むち打ちのように現代医学でも具体的な症状の仕組みがわからない後遺症だと、最初の経過診断書の傷病名欄に関連性のある傷病名の記載があれば、認定に有利に働きます。
高次脳機能障害でも、「高次脳機能障害」、または「脳挫傷」など高次脳機能障害の原因となる傷病が記載されていると、後遺障害診断書に明確な診断名がないときでも、高次脳機能障害として認定される道が開けることがあります。
(2) 治癒または治癒見込日
後遺障害の認定を受けるうえで、記載がされてしまうと非常に厄介な記載欄がこの「治癒または治癒見込み日」です。
交通事故の損害賠償手続において、「治癒」とは、怪我が完全に治った状態、つまり、後遺症がない状態を指す言葉です。
治癒とされてしまったらもちろん、将来に治癒が見込まれる日があると記載されてしまっても、審査機関としては、医師は後遺症がないと考えていると判断してしまいます。
医師の中には、「治癒」という言葉を「症状固定」の場合も含むと思っている方がいます。
医師が本当に後遺症は残らないと判断している場合はどうしようもありませんが、そうでなければ、受診のときに、必ずしも治癒見込み日を記入する必要はなく、空欄でも良いということをあらかじめ医師に伝えておいてください。
(3) 症状の経過・治療の内容および今後の見通し
後遺障害認定に対して、最も積極的な役割を果たす項目です。
被害者の方が医師に説明した自覚症状・検査結果などの他覚的所見により判明した他覚症状・手術や投薬などの治療内容など、認定に影響を与える事情の記載が想定されています。
もっとも、現実には、それぞれ一言さらっと記載されるだけのことがほとんどです。
それで悪いというわけではありません。むしろ、医師が誤解を招くような記載をした結果、問題が生じることもあります。
たとえば、「現在の回復状況は60%ほど」というような記載は、将来100%回復する、つまり治癒してしまうことを意味するおそれがあります。
また、一般的に、交通事故の後遺症は、事故直後が一番ひどく、その後緩やかに回復していきます。医師に対して「(症状は残っているけど)だいぶよくなった」と説明すると、医師がもう完治した、あるいはいきなり一気に症状が治まったと勘違いして経過診断書に記載してしまうことがあります。
自覚している症状を医師に伝えるときは、慎重に、正確に伝えてください。
(4) 主たる検査所見
医学的な専門的検査は、客観的に症状を判断するためにとても重要です。
むち打ちでは、画像検査で異常が分かれば、通院中や後遺症の慰謝料などが増えることもあります。高次脳機能障害の原因となる脳の損傷が検査で分かったとなると、後遺障害認定をしてもらえる可能性が生じます。
検査結果、とくにCTやMRIなどの画像検査で有利な結果がでたら、経過診断書への記載を一言お願いしておきましょう。
(5) 初診時の意識障害
高次脳機能障害で特に重要となる項目です。
交通事故直後に意識障害があることが、高次脳機能障害を認定するための原則的な前提条件となるからです。
(6) 既往症および既存障害
交通事故以前から病気や障害を持っている場合、怪我や後遺症の原因が交通事故ではないとされるおそれがあります。
交通事故による怪我や後遺症があるとしても、以前に後遺障害の認定を受けた後遺症がある場合には、「加重処理」と言って、その後遺障害の損害賠償金が、今回の賠償金から差し引かれることがあります。
体のどこにどのような障害があるのか、医師が勘違いしないよう、丁寧にお伝えください。
(7) 後遺障害の有無について
これ以上ないほどストレートな判断を記載する項目です。
治療継続中であれば、ほとんどの場合は、「未定」と記載されるでしょうが、医師に一言確認しておいてもよいでしょう。
(8) 診断結果
治癒、継続、転医、中止、死亡という5つの選択肢から選びます。
症状固定となった場合には、最後の経過診断書で「中止」を選択してもらうことになります。
ところが、医師はしばしば、症状が固定され後遺症が残ったと診断したにもかかわらず、「治癒」を選択してしまうことがあるのです。なぜなら、労災制度では症状固定の意味で「治癒」という言葉を使っているためです。医師が間違えてしまうのも無理がありません。
しかし、経過診断書で治癒を選択されてしまえば、後遺症はないとして後遺障害の認定を受けられないおそれが高まります。
症状固定を医師から伝えられたら、最後の経過診断書の診断結果は「中止」にするよう、医師にお願いしてください。
3.まとめ
経過診断書には、後遺障害等級の認定条件に関わる治療の経過などの診断が記載されます。
後遺障害診断書に比べれば重要度は下がるとはいえ、被害者の方が直接内容を確認できないため、後遺障害等級認定手続の細かな運用を知らない医師が不利な記載をしてしまうリスクがとても高いことは無視できません。
直接に経過診断書の内容をチェックすることはできないとしても、受診の際に、経過診断書の記載内容について後遺障害等級認定手続の仕組みに合わせた記載をするようお願いすることは、医師との関係次第ではありますが、十分可能です。
そのためには、まずは、法律の専門家であり、後遺障害等級認定手続に精通した弁護士と、あなたが被害を受けた交通事故に関する具体的な相談をしたほうが良いでしょう。
交通事故で怪我や後遺症を負ってしまい、後遺障害等級認定を検討していらっしゃる被害者の皆さんは、是非、泉総合法律事務所へとご相談ください。
皆様のご来訪をお待ちしております。
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