自己破産をしても年金は受け取れる?
「老後破産」という言葉を聞いたことがある方は少なくないと思います。
高齢者が貧困のため生活保護水準以下の生活を送っていたり、住宅ローンやその他の債務を完済する前に退職日が到来してしまい、返済が困難となって自己破産をせざるをえなくなったり、といったケースが増加し、社会問題になっています。
自己破産をすると、原則として財産は全て処分しなければなりません。
とすれば、自己破産後は今受け取っている年金ももらえなくなってしまうのでしょうか。現在、まだ年金を受け取っていない場合に、将来受け取るべき年金は、どうなってしまうのでしょうか。
多くの高齢者にとって、頼みの綱は年金です。
また、現在まだ年金を受給する年齢ではない方にとっても、自己破産が将来受け取れる年金に影響を与えるのかどうかは気になると思います。
そこで今回は、これらの疑問に答えるべく、自己破産と年金について解説します。
このコラムの目次
1.自己破産で処分される財産について
自己破産をして免責を受けると、残債務の支払が免除されるかわりに、手元に残すことが認められる一定の財産を除いて、原則として全ての財産を換価・処分しなければなりません。
その対象となる財産には、現金や不動産、自動車はもちろん、生命保険などを解約した場合に受け取れる解約返戻金や将来勤務先から退職金を受け取ることができる権利なども含まれます。
では、年金を受け取る権利(年金受給権)はどうなのでしょう。
年金受給権も退職金債権と同じように換価・処分の対象となる財産として扱われてしまうのでしょうか。
2.自己破産と年金
一口に年金といっても公的年金と私的年金があります。
そこで、年金の種類別に解説することにしましょう。
(1) 公的年金について
結論から言いますと、自己破産をしても公的年金の受給権を失うことはありませんし、破産手続において退職金債権のように換価・処分の対象になることもありません。
遺族年金や障害年金についても扱いは同じです。
(2) 私的年金について
企業年金
退職金制度の代わりに企業年金制度を導入している企業がありますが、企業年金の場合は、公的年金と同様に、換価・処分の対象とはなりません。
確定拠出年金、確定給付年金、厚生年金基金いずれも、後述する差押禁止財産です(確定拠出年金法32条、確定給付企業年金法34条、厚生年金保険法41条)。年金受注前に自己破産してもその後受給できなくなることはありませんし、受給中に自己破産しても受給が止まる心配はありません。
一方で、退職金制度を採っている場合は、退職金の一部・全部が破産財団に組み入れられてしまい、換価・処分の対象となる可能性があります。
[参考記事]
自己破産によって退職金がどうなるかを弁護士が詳しく解説
個人年金
公的年金や企業年金とは違い、個人年金は差押財産に該当せず、自己破産において資産とみなされます。
したがって、基本的には、個人年金を解約し、解約返戻金を換価・処分する必要があります。
「基本的には、」と書いたのには理由があります。
自己破産では、自由財産呼ばれる生活に最低限必要な財産は換価・処分されないことになっており、例えば、東京地裁では、99万円までの現金や20万円以下の一定の財産については換価・処分されません。
したがって、東京地裁に自己破産を申し立てた場合に、個人年金の解約返戻金が20万円以下であれば、換価・処分の対象にはならないということになります。
気を付けなければならないのは、保険についても同様の運用がなされるので、個人年金との解約返戻金の合計が20万円を超えると換価・処分の対象となってしまうということです。
自由財産については、裁判所によって運用が異なるので、自己破産前に弁護士に相談が必要になります。
では、なぜ公的年金や企業年金が、換価・処分されないのかその理由について、以下で説明します。
3.自己破産と差押禁止財産
(1) 差押禁止財産の内容
まず破産法では、「破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。」と定めています(破産法34条1項)。
「破産財団」とは、破産管財人が管理・処分権限を有し、債権者への配当にあてられるべき破産者の財産の総体のことです。つまり、破産手続において換価・処分の対象となる資産ということです。
そして、破産法34条2項は、「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属する。」としています。
つまり、破産手続開始決定時点ではまだ請求可能となっていなくても、破産手続開始前に生じた原因に基づいて将来請求することができるようになる債権については、破産財団に属するものとして換価・処分の対象となるということです。
たとえば、将来勤務先から受け取る予定の退職金債権などがこれにあたります。そうすると、現在年金を受給している人の年金受給権はもとより、将来の公的年金の受給権も破産財団に属することになるようにも思われます。
ですが、破産法34条3項では、差し押さえることができない財産、つまり差押禁止財産については、破産財団に属しないとしています。
そして、公的年金や企業年金の受給権については、法律で原則として差し押さえが禁止されています(国民年金法24条、厚生年金保険法41条1項、企業年金については前出)。
そのため、公的年金や企業年金の受給権は、破産財団に属することがなく、換価・処分の対象とならないのです。
ですから、公的年金や企業年金を受給中に自己破産をしても、年金はそのまま受給できますし、まだ受給していない人の場合は、将来受給年齢に達すれば受け取ることができます。
(2) 年金が入金された口座の差し押さえは可能
上記のとおり、公的年金や企業年金の受給権は差し押さえが禁止され、換価・処分の対象となりませんが、気を付けていただきたいのは、年金が入金された金融機関の口座を差し押さえることは原則として可能であるということです。
年金は金融機関の口座に振り込んでもらって受け取ることが通常ですが、いったん口座に振り込まれた年金は、もはや年金受給権ではなく、預金債権となります。そうなると、他の預金債権と同様、原則として差し押さえが可能となるのです。
そこで、差し押さえの危険がある場合には、受給したらすぐに口座から引き出すなどの方法をとる必要があります。
実は、口座に入金された年金について差し押さえをされないようにするために、差押禁止範囲の変更を裁判所に申し立てる方法もありますが、債権者が取立てを完了してしまうと変更が認められず、この方法で受領した年金を守るのにも限界があります。
4.自己破産で免除されない年金担保貸付
自己破産をして免責許可決定が得られれば、残っている債務は原則として全て免除されることになります。
ですが、「年金担保貸付」については、自己破産をしても免責はされません。
「年金担保貸付」とは、独立行政法人福祉医療機構が実施している国民年金や厚生年金保険を担保にした貸付のことで、高齢者が、保健・医療、介護・福祉、住宅改修、冠婚葬祭、生活必需物品の購入などの支出のために一時的に小口の資金が必要な場合に利用できる制度です。
年金担保貸付は、年金支給機関から支給される年金から、利用者が指定した額(定額返済額・1万円単位)を差し引いて返済していくことになります。そして、この天引きは債務を完済するまで続きます。
年金担保貸付は、年金受給者であれば低金利で容易に融資を受けることが可能である点にメリットがあるのですが、貸付額を完済するまでずっと年金支給額から返済額を天引きされ続け、自己破産をしても免責されませんので、ある意味とても怖い借金ということもできます。
知らずに借りてしまうと返済に苦しむこともありますから、ご注意ください。
5.税金滞納をすると年金も差し押さえ
上で説明したように、公的年金や企業年金の受給権を差し押さえることは原則として許されていません。
ですが、税金を滞納した場合については、例外的に差し押さえが認められています(国民年金法24条ただし書、厚生年金保険法41条1項ただし書)。
しかも、通常は強制執行で差し押さえをするには裁判所に申し立てて手続をしなければなりませんが、税金の滞納処分で差し押さえをする場合は、裁判所を経由せずにいきなり差し押さえをすることが可能となっています。
また、自己破産をしても、滞納した税金は免責されません。税金の滞納額が多額になっている場合には、自己破産後も支払いに苦しむことになりかねません。
ですから、税金の滞納には要注意です。
近年では、住民税や国民健康保険料などを滞納してしまった高齢者の年金が差し押さえられるケースが増えています。
滞納処分として年金がいきなり差し押さえられてしまうと、生活が立ち行かなくなってしまうことにもなりかねませんから、税金を滞納している場合にそれを放置しておくことは危険です。
税金の支払が難しい場合には、できるだけ早く市役所などの担当窓口に相談に行きましょう。
事情をきちんと説明すれば、いきなり滞納処分がされることを防げますし、分割納付などの対応をしてもらえます。
6.年金生活の高齢者の自己破産は弁護士に相談を
今回は、自己破産と年金の関係について関して解説いたしました。
公的年金や企業年金は、原則として差し押さえが禁止されているので、自己破産をしても年金が受け取れなくなったりすることはないということでご安心いただけたかと思います。
ただ、年金が入金された金融機関の口座の差し押さえは可能ですし、年金担保貸付や税金の滞納があると自己破産をしても支払いを免除されません。
また、税金の滞納処分として年金が差し押さえられたりする可能性があるので、注意が必要です。
自己破産をはじめとする債務整理について疑問や不安があるなら、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
泉総合法律事務所では、債務整理のご相談は何度でも無料でお受けしております。お気軽にお問い合わせいただければと思います。
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